2009年7月12日日曜日

ブラック・スワン―不確実性とリスクの本質

プロローグ
第1部 ウンベルト・エーコの反蔵書、あるいは認められたい私たちのやり口
1 実証的懐疑主義者への道
2 イェフゲニアの黒い白鳥
3 投機家と売春婦
4 千と一日、あるいはだまされないために
5 追認、ああ追認
6 講釈の誤り
7 希望の控えの間で暮らす
8 ジャコモ・カサノヴァの尽きない運
9 お遊びの誤り、またの名をオタクの不確実性

第2部 私たちには先が見えない
10 予測のスキャンダル


プロローグ
人間にはランダム性、とくに大きな変動が見えない/新聞を読むと世の中のことがかえって分からなくなる/分かっていることより分からないことのほうが大事/秘密のレシピ/ブラック・スワンの環境では予測がきかない、順応するしかない/技術革新はブラック・スワン/知識を理論化するより、地面に足をつけて一歩一歩進む/顧みられない英雄―呪われた詩人(ポーやランボー)なんて色あせてしまう/治療より予防―でも、予防のために何かをして高く評価されることはあまりない/壮大な知的サギ(GIF、ベル型カーブ)/不確実性を飼いならした気になる
プラトン性―地図と本物の地面/たとえやお話は、(ああ)アイディアなんかよりもずっと強力だ。覚えておくのも簡単だし、読んでいて面白い/極端な出来事から手をつける

第1部 ウンベルト・エーコの反蔵書、あるいは認められたい私たちのやり口
読んだ本より読んでない本/蔵書は自分の知らないことを詰め込む/反蔵書=読んでない本のコレクション

1 実証的懐疑主義者への道
歴史と不透明の三つ子/バックミラーを見て後づけで解釈する/歴史や社会はジャンプする(流れない)/日記は後で書いてはならない―シャイラー『ベルリン日記』/WWⅡの始まりの頃を生きた人たち/いい加減な分類がどれだけ傍迷惑か知りたければ、分類でできる塊が歴史上どれだけ頻繁に変更されたか調べればいい/分類すれば複雑さは低下する、ブラック・スワンが生まれるのはそういうところだ/凝り固まったプラトン性がブラック・スワンを呼ぶ/不確実性の源をいくつか無視することになるから/私は新聞をまったく読まなくなり、テレビも完全に見なくなった/仕事の世界の細かいところになんか、何にも面白いことはない/87.10.19.史上最大の株価の暴落―あれはブラック・スワンだったが、私はまだそういう呼び名を知らなかった/数理ファイナンス、クォンツ/懐疑的実証主義者で怠け者読書家、アイディアを深く深く突き詰めることに全力を挙げる人間―リムジンの運転手

2 イェフゲニアの黒い白鳥
本は何百万部も売れ、批評家の連中にも絶賛された/後から考えてみると、彼女の才能は火を見るよりも明らかだった/イェフゲニアの本はブラック・スワンなのだ

3 投機家と売春婦
投機化と売春婦の決定的な違い/「アイディア」人間と「仕事」人間に分けられる/作家、投機家、サギ師⇔パン屋、医者、売春婦/死せるホロヴィッツが生ける哀れな男を走らせる/映画や芸術の世界では、成功すると才能があることになる、その逆ではない/果ての国では格差が大きい―データ1つが全体に圧倒的な影響を及ぼす/果ての国ではブラック・スワンが生まれる可能性があり、実際生まれる/月並みの国に属する(タイプ1と呼ぶランダム性)/身長、体重、パン屋・売春婦の稼ぎ/果ての国に属する(タイプ2と呼ぶランダム性)/財産、所得、著者1人あたりの本の売上げ、グーグルでのヒット数、都市の人口……/果ての国のリストのほうが月並みの国のリストよりずっと長い/月並みの国と果ての国―この本を通じて、たびたびこの表に戻ってくることになる/「灰色の」ブラック・スワンという特殊な場合

4 千と一日、あるいはだまされないために
感謝祭の前の水曜日の午後、思いもしなかったことが七面鳥に降りかかる/30年代のドイツ社会に溶け込んでいたユダヤ人/LTCMがほとんど一瞬のうちに破綻/七面鳥から見れば1001日目にエサがもらえなかったのはブラック・スワンだが、鶏肉屋にとってはそうではない/一般的には、よいブラック・スワンは広まるのに時間がかかり、悪いブラック・スワンはとてもすばやく起こる/つくるより壊すほうがずっと簡単で速い/ブラック・スワン問題(七面鳥の問題、帰納の問題)/ヒュームの問題/セクストス・エンペイリコス(BC2C、アレクサンドリア?)/エンピリカ/アルガゼル/ピエール=ダニエル・ユエ/ユエもベールも博識であり、本を読んで生涯をすごした。…当時、彼は誰よりも本を読んでいる人だといわれていた。私にとって博識かどうかはとても大事なことだ。博識だということは、純粋な知的好奇心をもっている可能性が高い。開かれた頭を持ち、他の人の考えを知りたいと思う人である可能性が高い。何よりも、博識になるということは自分の知識に満足していないということであり、そういう不満があると、プラトン性だの五分間マネージャーがする単純化だの、専門バカの学者の俗物根性だのに陥りにくい。実際、知識欲なしで学問に向かうとひどいことになる。/七面鳥にならずに意思決定をしたい/「タレブ、そんなにまでリスクを気にしてちゃ、道も渡れないんじゃないか?」/私がこの本で書きたいのは、目をつぶったまま道をわたるのはやめようということだ/私たちが暮らしているのは月並みの国ではないから、ブラック・スワン問題をじゅうたんの下に隠してはおけない/実際、ブラック・スワンは死にいたる病ではない/これらの5つを今後の5章でそれぞれ論じる(第1部の結論で、これら5つは実質的に同じものであることを示す)/①追認の誤り、②講釈の誤り、③ブラック・スワンなんていないかのように行動する、④物言わぬ証拠の歪み、⑤トンネル(素性のはっきりした不確実性の源ばかりに集中する)

5 追認、ああ追認
行きと帰りの誤り/「テロリストはほとんど皆イスラム教徒」と「イスラム教徒はほとんど皆テロリスト」/ズーグルばかりがブーグルではない/統計学者だって悩みを教室に置き忘れる/私たちは現実の場面では論理的な誤りを犯すが、教室では犯さない/母乳にだっていいところがあるかもしれないじゃないか(あるという証拠がないだけで)/素朴な経験主義/判例を積み重ねることで、私たちは真理に近づける。裏づけを積み重ねてもダメだ/半分懐疑主義ぐらいでいい。ポパーのように/反証…間違っていると証明すること/(思い切った)推定を行って、推定の裏づけではなく、推定が間違っていることを示す事例を探す。そういうことができるように生まれつく人間はほとんどいない。私だってそうだ/追認バイアス…裏づけを求める/当てはまらない例のほうがはるかに強力だ/「2、4、6」…数字は小さい順に並んでいる。それだけだ/ソロスは自分の仮説の間違いを探す/彼は赤いミニを指さして叫んだ。「見ろよナシーム、黒い白鳥なんていないぞ!」/全部ってわけじゃない。バカな一般化はしないほうがいい/そういう判断を下すには1000日では全然足りないんだ

6 講釈の誤り
私たちは講釈が好きだ。要約するのが好きで、単純化するのが好きだ。ものごとの次元を落とすのが好きなのである/理論化という病気を抑えるのは困難だ/実は、ストッキングは全部同じものだ。女の人たちは後づけで理由をつくったのだ/右脳は木を見る、左脳は森を見る。左脳を壊してしまえば、人はもっと現実的になる/解釈せずにいるのがどうしてそんなに大変なんだろう? 理論化するのに比べて、理論化しないことは、どうしてこんなにエネルギーを使うんだろう?/でたらめな数字にはっきりしたパターンが見えたと思い込む。知識とまぐれの関係/①情報を手に入れるのにはコストがかかる、②情報は溜め込むのみもコストがかかる、③情報は複製したり取り出したりするのにもコストがかかる/パターン化や法則を見つければ、まる覚えする必要がなくなる。私たちはいつも法則に飢えている。そうしてブラック・スワンを無視してしまう/世界は枝葉末節でいっぱい/「王が死んだ。女王が死んだ」、「王が死んだ。それから女王が悲しみのあまり死んだ」。どちらが軽くて持ち運びが簡単だろう?/思い出すたびに、過去の事象の内容は変わっていく/市場が動くと、マスコミは理由をつけなくちゃいけないと思い込んでいる。フセイン確保で株価は上がるし下がる/マスコミは間違ったことを限りなく几帳面にやりたいみたいだ(だいたい正しければそれでいいなんて考える物語作家とは違う)/国民性なんてまったくの作り話だそうだ/私たちは筋立てのある話を聞きたがる。でも、その性で現実の姿が歪められてしまっていないか?/むしろ彼らは、世界を実際よりも複雑にしてしまう/抽象的な統計データの情報は、逸話ほどには人の気を引かない。どんなに頭がいい人でもそうだ/「人が1人死ねば悲劇だが、100万人死ねば統計に過ぎない」(スターリン)/理論化を最小限にとどめた上で規則性を探している/システム1(経験的思考)とシステム2(演繹的思考)/『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』/ヒューリスティックとバイアス派/推論をしていて間違いを犯すのはほとんど、私たちがシステム2を使っているつもりで、実はシステム2を使っているときだ/私たちがブラック・スワンを正しくとらえられないのは、主に私たちがシステム1を使うためだ。…ブラック・スワンは私たちには抽象的過ぎるからだ。/講釈の誤りという病を避けるには、物語よりも実験を、歴史よりも経験を、理論よりも臨床的知識を重んじることだ

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